音楽の専門学校を卒業し、Webディレクターを経て、未経験からデータ分析の世界へ。現在は、物流倉庫で使われる需要予測システムの専門チームを率いている。
Python、AWS、Snowflake。
機械学習を使った複雑なシステム。
今の仕事だけを見ると、ずっとITやデータの世界を歩いてきた人のようにも見える。
でも本人は、分析屋へ入る前、
「自分には、何の技術も身についていないんじゃないか」
と悩んでいた。
一方で、音楽を続け、人前に立ち、本を読み、Webの仕事ではプロのデザイナーやエンジニアの仕事を間近で見てきた。一見、データ分析とは関係なさそうな経験ばかりだ。
けれど今、社内外から評価されているのは、難しいことを整理して、相手が理解できる言葉に変える力。
技術だけではない。
これまで生きてきた中で身につけたものが、後になって仕事の武器になることがある。渡邉のキャリアは、そんなことを教えてくれる。
「自分には技術がない」。だから、裏側を知りたくなった。
分析屋に入社するまでのキャリアについて教えてください。
音楽の専門学校を卒業したあと、2年くらい学校でアシスタントをしていました。授業の準備をしたり、学生と一緒に演奏したり。今も音楽は続けていて、ライブもしています。
その後、知人の紹介でWeb系の会社に入って、ファンクラブサイトや通販サイトのWebディレクターをしていました。
お客様に、
「どんなサイトをつくりたいですか」
「どんな機能が必要ですか」
と聞いて、それをデザイナーやエンジニアに伝える。出来上がったものを確認して、スケジュールを調整する。いわゆる橋渡し役ですね。
振り返ってみると、今の仕事にもかなり近いですよね?
そうかもしれないですね。
ただ、当時の私は「自分自身には、何も技術が身についていないんじゃないか」という不安がありました。私は手を動かして実装する人ではなかったので。
でも、裏側は知りたかったんです。
ディレクターなので本来やらなくてもいいんですけど、簡単なWebサイトの修正をやってみたり、動画編集や画像加工、バナー制作をやってみたり。
「これ、どうやってできているんだろう」と思うと、自分でも触ってみたくなる。そういうところは昔からあったと思います。
Webサイトを運営していたときも、
「どうすれば会員数が増えるんだろう」
「このキャンペーンで数字が動いたのかな」
と考えること自体は好きでした。
でも、どう指標を設定して、どう分析して、その結果をどう次のアクションにつなげるのかは、自分の中ではまだ手探りでした。
だったら、一度ちゃんと学びたい。
それが、データ分析の世界に行こうと思ったきっかけです。
自分のペースで、ちゃんと考えられる働き方を探していた。
数ある会社の中で、分析屋を選んだ理由は何ですか?
一番は「楽しそうだった」ことかもしれません。
未経験OKのデータ分析求人をいくつか受けたんですけど、実際に話してみるとかなり経験を求められていたり、面接官の方との会話から、自分とは少し雰囲気が合わないかもしれないと感じる会社もありました。
そんな中で、分析屋からWantedlyで声をかけてもらいました。最初の面談も、本当にカジュアルで。
「技術は全然ないんですけど、興味はあるんです」
と話しても、
「全然できると思いますよ」
という感じでした。
技術ブログを見ても、大谷翔平さんを分析している人がいたり、それぞれ好きなテーマを好きに掘っていたりして。
「この人たち、楽しそうだな」と思ったんです。
「楽しそう」は、転職先を選ぶうえでかなり重要だったんですか?
重要でした。
前職の終盤は、半年先まで新しいサイトの立ち上げ予定が入っているような時期があって、次々に仕事が続いていく中で、当時の私は目の前のものをとにかく一つずつ処理していくことで精一杯になっていました。
もちろん、会社には会社なりの進め方や事情があったと思います。今振り返れば、自分自身の経験や仕事の進め方がまだ十分ではなくて、もっと工夫できたこともあったと思います。
ただ当時は、
「この忙しさを、どうすれば改善できるんだろう」
「自分の仕事を、どうコントロールすればいいんだろう」
「この先、どうすれば少し余裕をつくれるんだろう」
という道筋が、自分には見えていなかった。
それがつらかったんですよね。
だから転職では、
自分のペースで、ちゃんと考えながら仕事ができること。
楽しそうに働いている人から刺激を受けられること。
この二つを大切にしました。
Excelから始めて、気づけばPython、AWS、機械学習へ。
未経験で分析屋に入社することに、不安はありませんでしたか?
めちゃめちゃありました。
エンジニアとして働いた経験もないし、SESも初めて。知らない会社に一人で行って、知らない人たちの中で働くのかな、と。技術的にも、本当に自分が戦力になるのか不安でした。
そこは営業の方にすごく助けてもらいました。技術面の不安も含めて聞いてもらって、
「ここならやっていけそう」
と自分が納得できる案件が見つかるまで、丁寧に案件を探してもらえたんです。
最初は、放送業界のデータ集計・レポーティングの仕事でした。配信された番組の視聴データなどを集計して、ExcelやPowerPointでレポートにまとめる。
最初からいきなり高度なプログラミングを求められたわけではありません。
慣れてきたら、
「これ、毎回手でやらなくていいんじゃない?」
とデータ加工を自動化したり、BIダッシュボードをつくったり。会議で自分から質問や意見を出す仕事にも広がっていきました。
そこから、現在の機械学習の案件にはどうつながったんですか?
その後、有志の勉強会で知り合った方から声をかけてもらったことをきっかけに、今の案件へ移りました。
最初は、
「資料作りが得意そうだから、提案資料を手伝ってほしい」
くらいだったんです。
それが、気づいたら案件に入って、チームリーダーになっていました(笑)。
今は、物流倉庫の発注に使われる需要予測システムの保守・管理をしています。Python、AWS、Snowflakeなどを使う、機械学習を組み込んだシステムです。
参画した時点では、PythonもAWSも実務経験はほぼありませんでした。最初はコードを見ても、ちんぷんかんぷんです。
でも毎日触っていると、少しずつ読み方が分かってくる。
しかも周りには、経験豊富なエンジニアの方たちが考え抜いてつくった“お手本”がある。
それを見ながら、
「こうやって設計するのか」
「こう書くのか」
と吸収していきました。
前職でプロのデザイナーさんの仕事を見ながら、デザインを覚えていったのと似ています。

技術を覚えたら、「難しいことを伝える人」になっていた。
現在は、どのような仕事や役割を担当していますか?
一言で言うと、説明する人ですね(笑)。
今は、需要予測システムのデータサイエンス領域を担当する専門チームのリーダーです。
システムの中身はかなり複雑なので、障害が起きたり、改修したりするときに、
「何が問題なのか」
「なぜこの方針なのか」
「どういう根拠でそう判断したのか」
を整理して、お客様に説明します。
詳細な仕様について質問が来ると、
「では専門家からお願いします」
みたいに、私に話が振られます。
自分がそういう役になるとは、まったく思っていませんでした。
振り返ってみると、今の仕事につながっている経験も結構ありそうですね?
そうかもしれないですね。
Webディレクターの仕事も、お客様の話を聞いて、整理して、エンジニアやデザイナーに伝える仕事でした。
音楽でも、人前に立つ機会は結構あります。ライブでは、初めて会うお客さんの前でMCもする。外国の方がいたら、頑張って英語で話したりもします(笑)。
長々しゃべりすぎず、伝えるところは伝えて、次の曲へつなぐ。そういう人前での感覚は、多少今にも生きているかもしれません。
あと私は本を読むのも好きなんです。
今になって考えると、音楽で培った“間”や人前での感覚、本からいろいろな人の考え方や表現を吸収してきたこと、Webでデザインを見てきたこと。
そういう、仕事の外も含めた経験が、複雑なものを整理して相手に伝える今の仕事につながっているのかもしれません。
前職ではプロのデザイナーさんの仕事をたくさん見ていたので、
「どこに色を使えば伝わるか」
「どう配置すると見やすいか」
「余白をどう使うか」
といった感覚も自然と身につきました。
エンジニアが扱う内容って、難しいものが多い。でも、見るのは人間なんですよね。
だから、技術を理解する力と、それを人間が理解できる形に変える力は、別々に必要だと思っています。
分析屋に入る前は、「技術を持っていない」と思っていた。
でも実際には、自分でも気づいていなかった別の強みを持っていたんだと思います。そして技術が後から加わったことで、それが仕事になった。
分析屋にいると、そういうことが結構起こる気がします。
「あなたはこれが得意だから、この職種」と最初から決めるというより、いろいろな人と仕事をしているうちに、
「この人、こういうこと得意じゃない?」
と周りが気づく。
自分でも知らなかった“向いていること”に、いつの間にか仕事が寄ってくる。
私が今の案件に入った経緯も、まさにそうですよね。最初は「資料をつくるのが得意そう」から始まっているので。
エンジニアになることより、自分の武器を増やしていく。
分析屋の「おもてなし」は、今の仕事にどう表れていますか?
私は、自分を犠牲にして相手に尽くすことがおもてなしだとは思っていません。
前職で仕事との向き合い方に悩んだ経験もあって、
「自分が元気じゃないと、人にも元気を分けられないよね」
という感覚があります。
だから、自分も相手も少し楽になる方法を考える。
身近な人が毎回手作業で何かやっていたら、頼まれていなくても1時間くらいで簡単な自動化ツールをつくって、
「使えそうなら使ってください。使わなくても全然大丈夫です」
と渡したりします。
自分の専門外の会議でも、話が止まっていたら、
「そもそも、何を決める話でしたっけ?」
と前提を整理したり、次のアクションのたたき台をつくったり。
最近は、自分の担当外でも「Mさんの意見を聞きたい」と呼んでもらえることが増えてきました。
入社前に想像していたデータ分析とは、少し違うんですよね。
昔は、
「データから傾向を見つけて、最適な施策を提示する」
ことを想像していました。
実際には、
「このプロジェクト、そもそも何のためにやっているんだっけ?」
「誰に何を判断してもらうんだっけ?」
から整理することの方が多い。
データと向き合うというより、人と向き合う力がかなり身についたと思います。
これから、どんなエンジニアになりたいですか?
実は今でも、自分を「典型的なエンジニア」だとはあまり思っていません(笑)。
これからデータ基盤の構築などにも挑戦してみたいですし、もっと技術は身につけたい。でも、技術だけの人になりたいわけでもないんです。
データ基盤をつくって終わりではなく、
「この仕組みを、どうすれば人がちゃんと使えるのか」
まで考えたい。
技術と対話の両方を使って、自分や周りの人が今より少し働きやすくなる環境をつくる。いろいろな人をつなぐハブのような存在になれたらいいなと思っています。
未経験から挑戦したい方へ、伝えたいことはありますか?
「Pythonが使える」「SQLが書ける」ももちろん大切です。
でも、それと同じくらい、
今の仕事で、何を考えて、どう動いてきたか
も大事だと思います。
未経験だから、自分には何もないと思わなくていい。Webの経験でも、接客でも、音楽でも、趣味でも。
一見エンジニアとは関係なさそうな経験が、後から意外な武器になることがあります。
だからまず、
「この作業って、そもそも何のためにやっているんだっけ?」
「もう少し良くできないかな?」
と、自分の身近な仕事を考えてみてほしい。
そして、小さくても一度試してみる。
技術は後から足すことができます。むしろ、それまでの自分を捨てて“エンジニアらしい人”になろうとする必要はないんじゃないでしょうか。
分析屋には、尖っている人も、まんまるな人もいます。技術に強い人も、話すのが得意な人も、何か妙なことにものすごく詳しい人もいる。
それぞれ持っているものが違うから、組み合わせたときに強くなる。
私自身も、非エンジニアだったころの経験を持ったまま、そこに技術が足されて今があります。
「エンジニアになる」というより、「自分の武器を増やしていく」。
未経験から分析屋に入るなら、そのくらいの感覚でもいいのかもしれません。