データクレンジングとは?データ活用の成否8割の鍵

「社内でデータ活用を進めようとしているが、なぜか期待した成果が出ない」
「AIやBIツールを導入したのに、出てくる分析結果がどうも信用できない」

もしあなたが今、このような壁にぶつかっているなら、その原因は「データの汚さ」にあるかもしれません。

データ分析の世界には、「Garbage In, Garbage Out」(ゴミを入れたら、ゴミしか出てこない)という鉄則があります。

どれだけ高価で高性能な分析ツールを使っても、元になるデータが「ゴミ」(=汚れたデータ)であれば、出てくる分析結果も「ゴミ」(=使えない、間違った情報)になってしまう、という意味です。

実は、データ分析プロジェクトにかかる時間(工数)のうち、実に7割〜8割が「データクレンジング」を含む地道なデータ準備に費やされている、という調査結果もあるほどです。

この記事を読めば、「データクレンジング」という言葉を初めて聞いた方でも、その重要性と基礎知識がしっかり理解できます。 さらに、現在まさに実務でデータの扱いに苦労している方に向けて、具体的な手法から、その作業の先にある「本当に価値あるデータ活用」の本質までを解説します。

データクレンジングとは「汚れたデータ」を「使えるデータ」に整備すること

結論から言うと、データクレンジングとは、「汚れたデータ(ダーティデータ)」を掃除して、誰もが「使えるキレイなデータ」に整備することです。

データクレンジングの定義

皆さんの会社には、顧客リスト、売上履歴、Webサイトのアクセスログなど、たくさんのデータが眠っているはずです。 しかし、そのデータは「そのまま」分析に使える状態でしょうか?

  • 入力担当者によって「(株)」と「株式会社」がバラバラ(表記ゆれ
  • 必須のはずのメールアドレスが入力されていない(欠損
  • 同じお客様が何度も登録されている(重複
  • 住所欄に電話番号が入っている(入力ミス

こうした「汚れたデータ」を、決められたルールに従って修正・削除・補完し、データの品質を高める一連のプロセスをデータクレンジングと呼びます。

類似用語との違い

データクレンジングと一緒によく使われる言葉があり、混乱しやすいので整理しておきましょう。

  • データクリーニングとの違い
    ほぼ同じ意味で使われます。データクレンジングの方が「汚染を取り除く」というニュアンスがやや強いですが、実務上は「データをキレイにする作業」として、どちらを使っても問題ありません。
  • 名寄せ(なよせ)との違い
    名寄せは、データクレンジングの手法の一つです。複数のデータ(例:Aシステムの顧客リストとBシステムの顧客リスト)の中から、「同一人物」や「同一企業」を見つけ出し、一つの正しいデータにまとめる(統合する)作業を指します。

なぜデータクレンジングが「データ活用の成否8割」を握るのか?

その答えは、「間違ったデータに基づいた分析結果は、間違った経営判断につながる」からです。データクレンジングは、その「間違い」を防ぐための最も重要な防波堤なのです。

理由1:「Garbage In, Garbage Out」の原則

先ほども紹介した「Garbage In, Garbage Out」(ゴミを入れたら、ゴミしか出てこない)の原則に尽きます。

例えば、顧客リストに同じお客様が「重複」して登録されていたらどうなるでしょう? 「当社の顧客数は1,000人だ」と思っていても、実際は800人かもしれません。 その間違った「1,000人」を基準に、「顧客単価は5,000円だ」と分析しても、その数字は全くのデタラメです。

さらに悪いことに、そのデタラメな分析結果をもとに「顧客単価を6,000円に引き上げる施策を打とう!」と経営陣が判断してしまったら…? もはや、それはデータ活用ではなく「データ事故」です。データクレンジングは、こうした致命的な意思決定ミスを防ぐために不可欠なのです。

理由2:そもそも「ダーティデータ(汚れたデータ)」が生まれる原因

「そもそも、なぜデータは汚れるのか?」 今、まさにデータの扱いに苦労している方は、日々実感されていることでしょう。

ダーティデータが生まれる主な原因は、大きく分けて3つあります。

  1. 入力ルールがバラバラ
    人の手による入力(例:Excelや顧客管理システム)が一番の原因です。
    「全角・半角」の不統一、「(株)」と「株式会社」の表記ゆれ、「1-1-1」と「1丁目1番地1号」といった住所表記の違いなど、ルールがないとデータは必ず汚れます。
  2. システムの仕様変更や老朽化
    古いシステムから新しいシステムへデータを移行する際に、データの形式が合わずに文字化けしたり、一部のデータが欠落したりすることがあります。
  3. 複数システムからのデータ統合
    「営業部のAシステム」と「マーケ部のBシステム」と「経理部のCシステム」で、それぞれ顧客データの管理項目が異なると、いざ全社の顧客分析をしようとしてもうまく統合できません。

データクレンジングがもたらす4つのメリット

地味で大変な作業ですが、データクレンジングをしっかり行うことには、大きなメリットがあります。

  • メリット1:データ分析の精度が向上する
    最大のメリットです。「ゴミ」が取り除かれることで、初めて「正しい分析結果」を得ることができ、データ活用のスタートラインに立てます。
  • メリット2:業務効率が向上し、工数を削減できる
    「分析業務の8割がデータ集計と整形…」といった悩みから解放されます。一度ルールを決めてキレイにしておけば、その後のレポーティングや分析作業は劇的に速くなります。
  • メリット3:データに基づいた迅速な意思決定が可能になる
    データが常に整備されていれば、経営陣や現場から「あのデータが見たい」と言われたときに、すぐさま正確なデータを提供できます。ビジネスチャンスを逃しません。
  • メリット4:コスト削減
    例えば、重複した顧客データや古い住所データを放置していると、同じお客様に2通のDM(ダイレクトメール)を送ってしまったり、届かない住所に送り続けたりと、無駄な郵送費や印刷費が発生します。クレンジングは、こうした目に見えるコストも削減します。

データクレンジングの具体的な5つの手法と実践ステップ

では、データクレンジングは具体的にどのように進め、何をすればよいのでしょうか。 結論は、「まず目的を決め、次に4つのステップで、5つの手法を使いこなす」ことです。

データクレンジング実践の4ステップ

やみくもに掃除を始めてはいけません。以下のステップで進めるのが王道です。

  • Step1:データ活用の目的と「あるべき姿」を定義する
    (H2「成功させるためのポイント」でも後述しますが、ここが最重要です)
    -「何のために」データを分析するのか?(例:「既存顧客の解約率を下げたい」)
    – そのために「どんなデータ」が必要か?(例:「顧客の最終購入日」「居住地域」)
    – そのデータは「どんな状態」であるべきか?(例:「日付はYYYY-MM-DD形式に統一する」)
    – この「あるべき姿」が、クレンジングの「設計図」になります。
  • Step2:データの収集と現状把握(プロファイリング)
    必要なデータを集め、現状を観察します。「設計図」と比べて、どれくらいデータが汚れているか(欠損率、表記ゆれのパターンなど)を把握します。
  • Step3:クレンジングの実行(下記5つの手法)
    Step1で決めたルールに基づき、後述する5つの手法などを使ってデータをキレイにしていきます。
  • Step4:プロセスの標準化と定期的な実行
    一度キレイにしても、データは日々生まれるため、また汚れていきます。Step3の作業を自動化・仕組み化し、定期的に実行できるようにすることが重要です。

代表的な5つのクレンジング手法【具体例つき】

Step3で実行する具体的な「掃除テクニック」です。

  1. 欠損値の処理
    「データがない」状態(空欄など)をどう扱うか決めることです。
    (例) アンケートの「年齢」が空欄の回答があった場合、「その回答データ(行)ごと削除する」か、「全体の平均年齢(例:35歳)で補完(穴埋め)する」といった処理をします。
  2. 異常値の処理
    「ありえない」データ(外れ値)を見つけて修正することです。
    (例) ECサイトの顧客年齢に「999歳」や「-1歳」があれば、明らかに常識から外れた入力ミスとして、「欠損値(空欄)」にするか、可能なら正しい値に修正します。
  3. 表記ゆれの統一
    同じ意味なのに、違う文字で入力されているものを統一します。
    (例) 企業名の「(株)分析屋」「株式会社分析屋」「分析屋」を、ルールに基づき「株式会社分析屋」に統一します。
  4. 重複データの削除・統合
    「同一人物」や「同一商品」が複数登録されている場合に、一つにまとめることです。(「名寄せ」とも呼ばれます)
    (例) Aさんが「引っ越し前の古い住所」と「引っ越し後の新しい住所」で二重登録されていた場合、電話番号や氏名などを手掛かり(キー)に同一人物と特定し、新しい住所のデータ(正)に統合します。
  5. データフォーマットの統一
    データの「形式」を揃えることです。特に日付や住所はバラバラになりがちです。
    (例) 「2025/10/20」「令和7年10月20日」「2025-10-20」といった日付の形式を、分析しやすいように「YYYY-MM-DD」形式(例:2025-10-20)に統一します。

(コラム) Excelですぐできるクレンジングテクニック

「今すぐExcelで顧客リストをキレイにしたい!」という方向けに、便利な関数や機能をご紹介します。

  • TRIM(トリム)関数
    =TRIM(セル)
    セル内の「余分なスペース」(例:「分析屋 太郎」のような名前の間の不要な空白)を削除してくれます。
  • CLEAN(クリーン)関数
    =CLEAN(セル)
    セル内の「印刷できない文字」(例:Webからコピーしてきたときの変な改行)を削除してくれます。
  • 置換 機能 (Ctrl + H)
    「検索と置換」の機能です。「(株)」を検索し、すべて「株式会社」に一括変換するなど、「表記ゆれ」を直すときに非常に強力です。
  • 重複の削除 機能
    「データ」タブにある機能です。指定した列(例:メールアドレス列)を見て、完全に一致するデータが複数ある場合に、重複分を削除してくれます。

データクレンジングを成功させるためのポイント

データクレンジングは、「やり方(手法)を知っていること」と「成功させること」は別問題です。ここでは、プロジェクトを成功に導くための3つの重要なポイントと、最近話題のAIとの関係について解説します。

ポイント1:目的を明確にする(「綺麗にすること」をゴールにしない)

これが最も重要です。 クレンジング作業は地味で奥が深いため、つい「100%完璧にキレイなデータを作ること」自体が目的になってしまいがちです。

しかし、データは「使って」初めて価値が生まれます。 分析の目的に関係ない項目まで完璧に掃除しようとして、何ヶ月もかけていては、ビジネスのスピードに間に合いません。

「売上分析がしたい」という目的なら、まずは「売上金額」と「日付」のクレンジングを最優先する。このように、目的から逆算して「どこまでやるか」の優先順位を決めることが成功の鍵です。

ポイント2:プロセスを標準化し、属人化させない

「あのExcelリストのクレンジングは、あの担当者しかできない…」 このような「属人化」は、組織にとって大きなリスクです。

「この列の表記ゆれは、このルールで統一する」 「欠損値は、原則として削除する」 といったクレンジングのルール(設計図)をきちんと文書化し、組織全体で共有・実行できる仕組み(標準化)を作る必要があります。

ポイント3:ツールを賢く活用し効率化する

数万件、数百万件にもなるデータを手作業やExcel関数だけでクレンジングするのは非現実的です。 もしあなたが今、SQLやPythonスクリプトを書いて夜な夜なバッチ処理を回しているのであれば、専門のツールを検討すべきかもしれません。

世の中には、データクレンジングを含む「データ準備」を効率化するためのETLツールや、分析屋が提供するBIツールなど、多くのソリューションが存在します。 手作業から脱却し、自動化することで、あなたはもっと価値のある「分析」や「提案」に時間を使うべきです。

(コラム) AIの発展でデータクレンジングは不要になる?

「最近のAIは賢いから、汚れたデータでも自動でキレイにしてくれるのでは?」 「AIが自動で分析してくれるなら、もう地道なクレンジングは要らないのでは?」 そう思うかもしれません。

結論から言うと、不要にはなりません。 むしろ、AIの性能(予測精度)を最大限に引き出すために、データクレンジングの重要性は以前にも増して高まっています

ここで重要なのは、「2種類のAI」の役割を区別することです。

1. 「学習」にキレイなデータが必要なAI(例:自社の予測AI)

皆さんが「自社のデータを使って、将来の売上を予測するAIを作ろう」と考える場合、そのAIは「過去の正しいデータ(=教師データ)」から予測パターンを学習します。

もし、その学習データが汚れていれば、AIは間違ったパターンを学習してしまいます(GIGOの原則はAIも同じです)。

AIに「(株)分析屋」と「株式会社分析屋」を「同じ会社だ」と正しく認識させるためには、人間がクレンジングしたデータで学習させる必要があるのです。

2. クレンジング作業を「手伝って」くれるAI(例:ChatGPTなどの生成AI)

一方で、ChatGPTのような「すでに膨大な知識を学習済みのAI(生成AI)」は、私たちのクレンジング作業を強力にサポートしてくれます。

これらは、私たちがゼロから学習させる必要がなく、その高度な「言語能力」や「パターン認識能力」を使って、面倒な作業を効率化してくれるのです。

例えば、AIに「このリストにある表記ゆれを検出して、修正案を提案して」と指示すれば、人間が目で探すより遥かに速く作業が終わります。

つまり、「1. 予測AI」が学習するために必要なクリーンなデータを、「2. 生成AI」が手伝って効率よく準備する、という関係性です。AIの時代だからこそ、その土台となるデータの品質が、AI活用の成否を分ける鍵となります。

【分析屋の視点】データクレンジングは「作業」ではなく「提案」の始まり

ここまでデータクレンジングの手法や重要性について解説してきました。 多くの教科書やWebサイトでは、この「手法の解説」で終わってしまいます。

しかし、私たち分析屋は、データクレンジングは「ゴール」ではなく、本当のデータ活用、すなわち「顧客への提案」の始まりだと考えています。

「作業者」で終わらない、データ活用の本質

もしあなたが「クレンジング作業に追われて、本来やりたかった分析や提案ができていない」と感じているなら、それは非常にもったいないことです。

データクレンジングは「手段」であり、目的は分析を通じて顧客の「課題を解決」することです。

データから顧客の「真の課題」を発見し、提案につなげる

私たちは、クレンジング作業の「なぜ?」を常に深掘りします。

「なぜ、このデータはこんなに汚れているのだろう?」 「なぜ、この項目だけ欠損値が異常に多いのだろう?」

この「なぜ?」を突き詰めていくと、データ入力の裏にある「業務プロセス」の問題や、組織の「隠れた課題」が見えてくることがよくあります。

例えば、「営業担当者Aさんのデータだけ表記ゆれが多い」ことがわかったとします。 この時、「データを修正しておきました(作業)」で終わるのが作業者です。

「Aさんの業務プロセスに何か負荷がかかっているのではないか?」 「入力ルール自体が複雑すぎて、現場が混乱しているのではないか?」 と仮説を立て、業務プロセスの改善や入力システムの改修まで「提案」するのが、私たち分析屋の目指す「提案者」です。

データクレンジングは、顧客のビジネスを深く理解し、真の課題を発見するための「宝探し」の第一歩なのです。

まとめ:正確なデータで、データ活用の「提案者」になろう

今回は、データクレンジングの重要性から具体的な手法、そしてAIとの関係までを解説しました。

  • データクレンジングは「汚れたデータ」を「使えるデータ」に整備する必須のプロセスです。
  • 「Garbage In, Garbage Out」の原則により、この作業がデータ活用の成否の8割を握っています。
  • 5つの手法(欠損・異常・表記ゆれ・重複・フォーマット)を、4つのステップ(目的定義・把握・実行・標準化)で進めます。
  • AI時代においても、クレンジングの重要性は変わりません。

そして最も重要なことは、データクレンジングは「作業」ではなく、「提案」の始まりである、という視点です。

もしあなたが、今のアナログな環境や「作業者」としての扱いに疑問を感じているなら。 もしあなたが、データを武器に「課題解決」や「提案」ができるプロフェショナルを目指したいなら。

私たち分析屋には、まさにその環境があります。

あなたのその「データを正しく扱いたい」という真摯な姿勢と、「その先にある課題解決までやり遂げたい」という情熱を、私たちは歓迎します。

ご興味を持たれた方は、ぜひ採用サイトの「募集要項」や「社員インタビュー」をご覧ください。

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